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水戸地方裁判所土浦支部 昭和52年(ワ)44号 判決

原告 生貝昇

被告 国 ほか二名

代理人 大坪昇 小林治寿 日出山武 ほか五名

主文

一  被告蛯原久子、同大友千春は各自原告に対し、金二五万円及びこれに対する被告蛯原久子については昭和五二年四月二三日から、被告大友千春については同年同月二二日から各支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告の被告蛯原久子、同大友千春に対するその余の請求及び被告国に対する請求はいずれもこれを棄却する。

三  訴訟費用中、原告と被告蛯原久子、同大友千春との間において生じたものはその一〇分の一を同被告らの、その余を原告の各負担とし、原告と被告国との間において生じたものはすべて原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

第一原告の被告蛯原、同大友に対する請求について

一  次の各事実は、右当事者間において争がない。

(一)  被告蛯原は司法書士、同大友はその娘であり、原告は不動産会社の役員をする傍ら金融業を営むものであること、本件土地が訴外誠市の所有であること、原告が「訴外誠市の長男であり、同訴外人の代理人である」と称する自称中島に対し、本件土地を譲渡担保に供するなら融資してもよい旨話したこと、昭和五〇年七月一四日、被告蛯原の事務所に、原告、訴外賀川、自称中島及び自称藤岡の四名が参集し、本件土地につき訴外誠市から原告宛の所有権移転登記手続をなすことを被告蛯原に依頼したこと、その際、自称中島及び訴外藤岡の両名が被告蛯原に対し、本件土地の登記済権利証を紛失したので、保証書により登記手続をして貰いたい旨申出たこと。被告蛯原が本件保証書を作成して登記申請手続をなしたこと、結局本件登記が経由されたこと、原告主張のような訴訟の結果、その主張どおりの判決がなされ(編注・昭和五〇年八月一五日、原告は、訴外誠市から本件登記の抹消登記手続が訴求され、昭和五一年一二月九日土浦簡易裁判所において、前記譲渡担保契約及び本件登記は、自称中島が訴外人と共謀の上中島誠市に無断で自らをその長男であり、本件土地の処分につき代理権があると称して勝手になされたものであるとして、原告敗訴の判決の言渡を受けた。)、該判決は確定して右登記が抹消されたこと。

(二)  被告蛯原は訴外誠市及び同仁左衛門と全く面識がなかつたこと、本件保証をする際、被告蛯原は事前に自称中島から訴外誠市の印鑑証明書、登記申請委任状を預けられ、自称中島から訴外誠市方の電話番号であるとして教えられた訴外栗原方へ電話したところ、相手は訴外誠市宅であるかの如く述べたこと、被告蛯原、同大友の両名が本件保証書作成に当り直接訴外誠市にその登記申請意思の有無及び自称中島に真実代理権を授与したか否かを確認しなかつたこと、被告大友が同蛯原に自己名義の保証書作成権限を授権していたこと、被告蛯原は本件登記申請が訴外誠市の意思に基づき、自称中島に代理権があるものと誤信して本件保証書作成に及んだこと。

(三)  訴外栗原及び同藤岡の両名が共謀し、郵便局員の訴外伊賀に対し、栗原が訴外誠市本人であるかの如く装つて、右伊賀より、法務局から誠市宛の通知書を受領し、その回答欄に所定事項を記載して法務局に回答し、本件登記を完了せしめたこと。

(四)  その後原告が訴外栗原及び同藤岡から金一四五五万円を取り戻したこと。

二  右争いのない各事実に、<証拠略>を総合し、弁論の全趣旨を参釣すると、本件のそもそもの発端は、訴外藤岡が同誠市所有の本件土地を利用して金員を騙取しようと企て、昭和五〇年五月二九日ころ、訴外栗原の内妻西谷房子方において、かねて買い求めておいた中島印を利用して訴外誠市名義の代理人選任届を偽造し、同日訴外栗原がこれを持参して土浦市役所中央出張所を訪れ、訴外誠市の登録印鑑を紛失のため右中島印に変更する手続をしたことに始まること、原告は、同年六月下旬、かねて知り合いの訴外賀川から、訴外誠市の息子が本件土地を担保に金八〇〇〇万円を融資して欲しいと言つているので貸してやつて欲しい旨の依頼を受けたこと、原告は、そのころ訴外賀川とともに現地を見分し、その際、同人から「訴外誠市は中気で起きられないので、工務店をやつている息子が全部任されてやつている、中島家では兄弟仲が悪く、財産相続で困つている、だから親父が死ぬ前にどこからか本件土地を担保に金を借りて諦めさせるか、生前に金で解決してしまうらしい」旨聞かせられたこと、原告はまた、その際本件土地の中央部分に中島組と書かれたプレハブの事務所があるのを認めたが、同所へ入つて行つて話を聞くなどはしなかつたこと、原告は、同年七月一二日、被告蛯原の事務所前で自称中島と初めて会つたが、その折には挨拶を交した程度で、売買にするのか担保にするのか、父親は承知しているのか、一切任されているのかなどの取引の重要な点についての話はなかつたこと、自称中島は訴外誠市の印鑑証明書、委任状を被告蛯原に預けたのち再び同被告の事務所を訪れ、訴外誠市が心配しているからと言つて、同被告から右書類の預り証を受領して帰つたこと、同月一四日の被告蛯原の事務所における会合において、自称中島及び訴外藤岡は本件土地に抵当権を設定して金六〇〇〇万円借り受けたい旨主張したのに対し、原告は融資額は金四五〇〇万円で、金利も月五分ではなく六分にし、買戻条件付で所有権移転登記しなければ駄目だというので、結局自称中島らはこれに応じたこと、その際自称中島は原告に対し、書類も完備しているので間違いなく移転登記できるから金を貸して欲しい旨述べたこと、またその際原告は、訴外藤岡らが保証書で登記して欲しい旨被告蛯原に依頼するのを聞き、同被告に「大丈夫か」と聞いたところ、同被告は書類も揃つているから移転登記できるとの意味で「大丈夫である」旨答えたこと、被告蛯原は、抵当権設定の話が譲渡担保ないし買戻特約付売買の話に変つたのを聞き、自称中島に訴外誠市の意思を確認するよう忠告し、原告もこれを聞いていたこと、同日原告は、自称中島と別に金四五〇〇万円で買戻できる旨の念書を作成し、同人と本件土地につき譲渡担保設定契約をなし、登記申請に必要な手続完了後、同人に対し利息天引で金三七〇〇万円を交付したこと、右三七〇〇万円の交付は、当初訴外藤岡は現金で二〇〇〇万円欲しいと言つていたが、大金を持ち歩けないとの原告の言葉により、現金で九五〇万円、その余は小切手によりなされたこと、訴外誠市は遂に本件取引の最初から最後まで原告及び被告らの前に姿を現さなかつたこと、本件土地は訴外誠市宅のすぐ近くに所在し、時価は一億五〇〇〇万円を下らないものであつたこと、同年八月一二日、訴外岡野実が誠市方を訪れ「本件土地を抵当に入れるから融資して欲しいとの話があるが、登記簿謄本を見ると原告宛に所有権移転登記したばかりで一寸変だと思い、元の地主に確認に来た」旨述べたこと、原告は、訴外誠市の訴により本件登記を抹消された後、訴外栗原らから貸付金を回収することに努めたが、同人らが本件行為により受刑したこと等のため前記のように金一四五五万円の回収にとどまつたこと、以上の各事実が認められ、右認定をくつがえすに足る証拠は存しない。

三  ところで不動産登記法は、登記申請に当り原則として登記義務者の権利に関する登記済証の提出を求め(同法三五条)、申請が登記義務者本人により行われることを確かめ、不実、無効の登記の発生を予防しようとしているところ、同法四四条の保証書はまさにかかる機能を有する登記済証の代替書面であり、これと同一機能を果すことを期待されているのであつて、同条の「登記義務者ノ人違ナキコト」の保証とは、現に登記義務者として登記申請をなす者と、登記簿上の権利者とが同一人であること、すなわち登記申請行為者と登記義務者との事実上の同一性を善良な管理者の注意をもつて保証するものであり(大審院昭和二〇年一二月二二日判決、民集二四巻三号一三七頁参照。)、従つて右保証をなすものは適切な手段、方法によりこれを確認すべき責務があり(なお同法一五八条参照)、もし右登記申請の依頼が代理人によりなされたときは、右本人の同一性のほか、当該代理人自身が、本人により代理人とせられる者と同一性を有するかについても、同様の確認をなすべきものである。そして、以上のことは、右保証が司法書士によつてなされるときでも同様であつて、司法書士は登記申請等の嘱託があつたときは正当な事由のない限りこれを拒みえないとの点(司法書士法六条)を考慮に入れても、なお真実の登記の重要性を思えば、登記事務の便宜や司法書士の事務の如何によつて、ことを左右すべきものでないと解するのが相当である。

そこでこの見地に立つて本件をみるに、前認定の事実関係によれば、被告蛯原は、訴外誠市及び同仁左衛門と全く面識がなかつたにかかわらず、訴外栗原が同誠市の長男で同訴外人から代理権を授与されていると称し、訴外仁左衛門であるかの如く振る舞つたのに疑を抱かず、右栗原から事前に訴外誠市の印鑑証明書、登記申請委任状を預けられ、更にその後訴外誠市が心配しているからと言つて同栗原から右書類の預り証の交付を求められたことや、また訴外誠市方の電話番号であると同栗原から教えられた先(実は訴外栗原方の電話番号であつたもの)へ自ら電話したところ、相手が訴外誠市宅であるかの如く述べたことなどから、たやすく訴外栗原は同仁左衛門であり、本件土地の処分につき訴外誠市から代理権を授与されているものと思い込み、訴外誠市に直接その登記申請意思の有無及び訴外栗原に代理権を授与したか否かを確認することもなく、本件保証書を作成したこと、被告大友は同蛯原に漫然自己名義の保証書作成権限を授権していたものであることが明らかであり、以上によれば、被告蛯原は、訴外栗原の側から提供された資料のみに基づいて同訴外人を仁左衛門であり、誠市の代理人であると軽信し、それ以上に訴外誠市方を訪れたり、同訴外人方の電話番号を電話帳で調べて電話するなどして直接訴外誠市の登記申請意思及び栗原への代理権の授与の有無につき適切な確認をしないで本件保証書の作成に及んだものであつて、被告蛯原には、保証人に要求される前記善良な管理者の注意義務を欠いた過失があり、またそのような保証人の義務に思いをいたすことなく、被告蛯原に漫然保証書作成権限を授権していた被告大友にも同様に右の義務を怠つた過失がある。

そして、前記事実によれば、右両被告が本件保証書を作成しなければ、原告は容易に自称中島と前記契約を締結しなかつたものと認められ、従つてまた原告は右中島に本件金員を貸付けず、その損害も発生しなかつたものといえるから、右被告両名の過失と本件損害との間には因果関係があるものというべきである。

四  以上のとおりであるから、本件が専ら原告の責のみに基づいて生じたとする被告蛯原及び大友の主張は理由がないが、同被告らは更に過失相殺を主張するので案ずるに、前記判示の事実関係によると、原告は、不動産会社の役員をする傍ら金融業を営むものであるところ、事前に訴外賀川から本件土地の所有者訴外誠市は中気で寝ており、中島家では兄弟仲が悪く、財産相続の問題で困つている旨聞いていたこと、訴外賀川を介しての当初の融資申込額は金八〇〇〇万円であつたのに、前記蛯原事務所における話し合いの結果、訴外栗原及び同藤岡は、容易に金四五〇〇万円(しかも利息を天引すると受取額は金三七〇〇万円にすぎず、そのうち現金で渡す分も上記のように訴外藤岡の申出額の約半分になつている。)と大幅に譲歩したこと、またその際、本件土地に抵当権を設定することにより担保目的を達したい旨主張する訴外栗原らの主張は、所有権移転の方式を固守する原告により排斥され、結局原告の主張どおりでよい旨大幅な譲歩を示したこと、そしてこれらの際右取引条件の変つたことを聞いた被告蛯原が訴外栗原に誠市の意思を確認するよう忠告し、原告もこれを聞いていたこと、訴外誠市は原告と栗原間の右取引において、最初から最後まで遂に姿を現さなかつたこと、被告蛯原に対する本件登記申請の依頼は、訴外誠市本人ではなく、その息子と称する者からなされ、しかも保証書によつて登記して欲しい旨の依頼であつたこと、融資額が前記のとおり高額であつたのみならず、本件土地の時価も約一億五〇〇〇万円を下らないものであつたことなど、一般的にももとより、殊に原告が不動産業等を営む者であつたことからすると、訴外誠市の登記申請意思及び訴外栗原の代理権につき当然疑いを差し挾むべき幾多の事情があつたにもかかわらず、原告は右の点に疑問を抱いて直接誠市の意思を確かめる等、適切な確認手段をとらなかつたものであり、しかも本件においては、原告は訴外賀川とともに本件土地を訪れており、同土地上には中島組の事務所があり、すぐ近くに訴外誠市方居宅も存したのであるから、右の確認をしようと思えばこれをすることは極めて容易であつたのである。

そもそも不動産取引において、従前面識のない相手方と担保権設定契約等を締結する場合には、特段の事情のない限り、第一次的には右相手方と取引する者自身が妥当な手段、方法により相手方の意思を確認することが、担保権者自身の損害の発生及び取引上の無用な紛争を未然に防止するうえから信義則上要求される要請というべきであり、特に本件における如く、融資額、従つてまた担保物件の価額が高く、それに比し相手方の意思及び代理人の代理権に多大の疑問の存する場合には、右当事者の義務は一層重いものといわなければならず、これを怠つた原告自身の過失は重大である。

そして、以上述べた原告の過失及び被告蛯原、同大友の過失を比照総合して考えると、本件における原告の過失割合は六割、被告蛯原、同大友のそれは四割と認めるのが相当である。

五  原告が訴外誠市に対する譲渡担保権を喪失した結果、右を引当てに貸付けていた金三七〇〇万円相当の損害を蒙つたことは叙上のとおりである。

ところで、衡平の理念に基づく過失相殺制度の趣旨からみると、原告の請求の態容にかかわらず、過失相殺は原告の蒙つた損害の全額につきなされるべきであつて、当該請求額のみについてなすべきものではないから、右金三七〇〇万円の全部について前記によりその六割を減ずると、それは金一四八〇万円となる。そして、原告が訴外栗原らから金一四五五万円の弁済をえていることはその自認するところであるから、これを控除すると、原告が被告蛯原、同大友に請求しうべき損害賠償額は金二五万円となるものである。

第二原告の被告国に対する請求について

原告の被告国に対する請求は、訴外伊賀の不法行為により損害を蒙つたとして民法七一五条に基づき国にその賠償を請求するものであるところ、被告国は、そもそも本件については同法条の適用はなく、郵便法六八条、七三条が適用され、原告の主張事実によるも、被告国が郵便法の右法条により損害賠償義務を負う場合に該らない旨主張するので、先ず右の点を判断する。

郵便法は、郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく公平に提供することによつて、公共の福祉を増進することを目的とするものであり(同法一条)、その故に、郵便は国の独占する事業で、郵政大臣がこれを管理し(同法二条、五条)、郵便料金は、郵便事業の能率的な経営の下における適正な費用を償いその健全な運営を図ることができるに足りる収入を確保するものでなければならない(同法三条)旨規定し、現金及び貴重品を郵便物として差し出すときは書留郵便物としなければならない(同法一九条)とし、書留の取扱いにおいては、郵政省において当該郵便物の受取から配達に至るまでの記録をし、もし送達途中に当該郵便物を亡失又はき損した場合には、差出の際差出人から郵政省に申出のあつた損害要償額の全部又は一部を賠償するとしてその損害要償額を限定した(同法五八条)うえ、第六章損害賠償の項において、損害が差出人若しくは受取人の過失又は当該郵便物の性質若しくは欠陥により発生した場合の免責規定、郵便物交付の際外部に破損の跡がなく、重量に変りがない場合の無損害の推定規定、郵政大臣の賠償すべき損害があると認められる場合で、郵便物の受取人又は差出人が郵便物の受取を拒んだときに、郵政省がなすべき損害の検査に関する規定、郵便物の受取人又は差出人が郵便物を受け取つたのち、又はその受領を拒んだ場合の損害賠償請求権の消滅の規定、損審賠償請求をなしうる期間についての規定、損害賠償後に郵便物を発見した場合に関する規定などを設けるとともに、同法六八条において「郵政大臣は、郵便物が書留として差出され、その郵便物の全部又は一部を亡失又はき損したとき、引換金を取り立てないで代金引換郵便物を交付したときに限り、同条二項によつて限定された損害賠償金を支払う」旨定め、同法七三条において「損害賠償の請求をすることができる者は、当該郵便物の差出人又はその承諾を得た受取人とする」旨規定している。郵便法が右の如き諸規定をおいているのは、郵便機関の現在の人的物的施設のもとにおいて、その目的に沿つて大量の郵便物を低廉且つ迅速に取り扱うにあたり、ある程度の事故が発生しそれにより損害を蒙る者のあることは避け難いところであり、このような事故に対しすべて民法の規定に従つてその損害を賠償し、多額の金員の支出を余儀なくされるとすると、郵便事業の運営は困難となり、ひいては一般の利用者の負担を重くして郵便法一条の目的とする公共の福祉の増進に背馳するに至るので、その見地から郵便物を取り扱うにあたり発生した損害につき国が賠償すべき範囲を限定したものと解すべきである。

この見地に立つて前記諸規定を検討すると、当該郵便物の差出人又はその承諾を得た受取人以外の第三者は明文上損害賠償請求権者に加えられておらず、右第三者が郵便法によらないで民法により損害賠償請求ができることを予測した明文はないうえ、郵便物の亡失又はき損等につき最も深刻な利害関係を有する当該郵便物の差出人又はその承諾を得た受取人でさえ、同法六八条一項に定められた二ケの場合に限り、同条二項に定められた限度で損害の賠償を受けうるにすぎないのに対し、それ以外の第三者は何ら右の如き制限を受けず、殆んど無制限にその損害賠償の請求ができる(その賠償額もいくらになるか見当がつかない)とするのは不均衡の感を免れず、もしこれを許すと郵便法の目的とする前記公共の福祉に反することとなるから、以上によれば、およそ郵便物の取り扱いにより生じた損害については、同法六八条に定められた事由があり、且つ同法七三条に定められた請求権者により請求がなされた場合に限り、国はその損害を賠償する責任を負うにすぎず、右第三者は民法の規定によつても国に損害賠償の請求をすることはできないと解さざるをえない。右の如く解した場合には、一見郵便事業により何ら利益を受けていない感のある第三者が損害賠償請求権に制限を受けて不合理であるかのように思われないではないが、右第三者も一般利用者として郵便事業の利益を享受しうる者であり、公共の福祉の見地から国に対する関係において右の如き制限を受けるのはやむを得ないところというべきである。

なお原告は、被用者たる訴外伊賀には重大な過失があり、このように当該郵便物を取り扱う公務員に故意又は重過失がある場合には、郵便法六八条、七三条による責任減軽は認められず、被告国は民法七一五条により損害賠償責任を負う旨主張するが、郵便法には鉄道営業法一一条の二第三項、一二条四項の如き特則はなく、文言上原告主張のように解釈しなければならない特段の根拠もないから、郵便法六八条、七三条の規定は当該公務員に重過失のある場合にも適用があるというべきである。

そうすると、原告の被告国に対する請求は、仮にその主張事実が認められたとしても、郵便法六八条、七三条により、被告国に対し損害の賠償を請求することができないものであるから、右請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

第三むすび

以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告蛯原及び同大友に対し各自金二五万円及びこれに対する各訴状送達の翌日たること記録上明らかな被告蛯原については昭和五二年四月二三日から、同大友については同月二二日から各支払ずみまで民事法定利率による遅延損害金の支払を求める限度で正当として認容し、右被告両名に対するその余の請求及び被告国に対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

なお、被告蛯原、同大友に対する仮執行の宣言は、その必要がないと認めるのでこれを付さない。

(裁判官 小谷卓男 二井矢敏朗 山下満)

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